まず、更新料発生の経緯からの検討ですが、大阪高裁の判決は、どんな考えを述べているのでしょうか。
大阪高裁の考えを簡単にまとめると、次のようになります。
今回の判決が更新料条項を無効とした理由はどうだったのでしょうか。
まず、事案の概要を見てみましょう。
本件は、大家さんが、借家人を被告として、京都地方裁判所に未払いの更新料の支払いを求める裁判を起こしたところ、京都地方裁判所が、更新料条項は消費者契約法10条に違反して無効であるという理由で大家さんの請求を認めなかったので、大家さんが、大阪高等裁判所に控訴したという事案です。
平成22年5月27日に、大阪高等裁判所から更新料条項を無効とする判決が出ました。これで、大阪高裁では3件目の無効判決です。大阪高裁では、更新料条項を有効とする判決も1件ありますので、現時点では、大家さん側から見ると1勝3敗です。
1勝3敗という数字もさることながら、今回の大阪高裁の判決の内容は、2年の賃貸借期間に対して、2ヶ月分の更新料を定める更新料条項を無効としたことが衝撃的でした。
そこで、これから何回かに渡って、
- 今回の判決の内容
- 今回の大家さんに与える影響、特に更新料返還請求裁判の多発の可能性
- 大家さんの対抗策
を考えてみたいと思います。
どんな時に使う?
大家さんが家賃を増額したいときは、まず、借主に対して、家賃を増額することを通知します。この通知は、後でいつ通知したかを証明する必要があるので、実務上は、必ず内容証明郵便によって通知します。
この通知を受け取った借主が、素直に増額に応じれば一件落着ですが、普通は簡単には増額に応じないでしょう。この場合、借主は、いままでの額の家賃を大家さんに支払っておけば、何ら法的な責任を問われません。
大家さんとしては、どうしても家賃を増額したいという場合は、まず賃料増額を求める民事調停を起こし、この民事調停で調停が成立しなければ、賃料改定の訴えを起こさなければなりません。
借主が家賃の増額に応じない場合に、強制的に家賃を増額するには、大家さんは、必ずこの賃料増額の民事調停 → 賃料改定の訴えという手続きを取らなければなりません。
その代わり、賃料改定の訴えで勝訴した場合には、判決で認められた賃料と借主が実際に支払っていた賃料の差額を、賃料増額の請求をした日に遡って請求できます(このため、いつ増額の通知をしたかを内容証明郵便と配達証明で立証する必要があるのです。)。さらに、この差額について、増額請求をした日から支払いを受けた日まで10パーセントの利息を請求することができます。
どんな時に使う?
たとえば、借主が家賃を3ヶ月以上滞納しているとか騒音を出して周りから苦情が出ているなどの場合に、大家さんは、借主に対して、滞納している家賃を請求したり、騒音を出さないように警告したりします。
これに対して、借主が素直に応じてくれれば問題ありませんが、借主が滞納を続けたり、騒音を出し続けたりした場合は、法的手続きをとる必要がでてきます。
この場合、単に滞納している家賃を払ってほしいというだけであれば、内容証明郵便を出した上で借主と交渉する、少額訴訟を提起する、支払督促の申立をするなどの方法で解決することが可能です。
また、その借主に出ていってほしいという場合でも、内容証明を出した上で話し合いをしたり、民事調停で話し合いをしたりして、自主的に出て行ってもらうという場合もあります。
しかし、借主が、家賃の滞納を続けながら出ていかない、あるいは騒音を出し続けながら出ていかないなどという場合は、明渡し訴訟を起こして、裁判所から明渡しを命じる判決を出してもらうしかありません。
どんな時に使う?
たとえば、借主が家賃を3ヶ月以上滞納しているとか騒音を出して周りから苦情が出ているなどの場合に、大家さんは、借主に対して、滞納している家賃を請求したり、騒音を出さないように警告したりします。
ところが、借主が、大家さんの請求や警告を無視し、家賃の滞納を続けている、あるいは騒音を出し続けているなどという場合は、契約を解除した上で明渡し訴訟を起こし、裁判所から明渡しを命じる判決を出してもらうしかありません。
この場合、明渡し訴訟の被告となるのは、現実に建物を使用している人間であり、通常は借主です。
しかし、もし借主が部屋からいなくなり、正体不明の人間が部屋を使用していると、その正体不明の人間を被告としなければならなくなります。ところが、正体不明ということは、名前も素性も分からないので、裁判を起こすことが困難となります(当然、こういう輩は、部屋を訪ねて名前や素性を聞いても、答えません。)。借主が悪質な人間であり、借家のトラブルについての法律的な知識があると、裁判をさせないように、こうした妨害行為をしてくるのです。
そこで、もし、借主が、上記のような行動に出そうだという場合は、裁判所に「占有移転禁止の仮処分」の申立をして、借主が、借りている部屋を他の人間に使用させることを禁止する命令を、裁判所から出してもらうことができます。
この命令が出ると、借主が、借りている部屋を他の人間に使用させることは禁止され、もし、他の人間がその部屋に入り込んで使用しても、借主を相手に明渡し訴訟をして勝訴すれば、その判決に基づく明渡し執行で、借主だけでなく、その正体不明の人間も、立ち退かせることができます。
どんな時に使う?
たとえば、借主が家賃を3ヶ月以上滞納しているとか騒音を出して周りから苦情が出ているなどの場合に、大家さんは、借主に対して、滞納している家賃を請求したり、騒音を出さないように警告したりします。
この場合、大家さんとしては、単に「滞納家賃だけを請求したい。」とか「騒音を出すのをやめてほしい。」という場合もあれば、「もう、この借主には出て言ってほしい。」という場合もあります。後者の場合、つまり、借主に出て言ってほしい場合に、大家さんと借主が話し合った結果、借主が部屋から出ていくことを約束したとします。大家さんが、「出ていかないなら裁判をする。」という強い態度に出たり、「出て言ってくれれば、滞納している家賃は請求しない。」という妥協案を出したりすると、借主が出て行くことを約束する場合があるのです。
借主が出て行くことを約束したら、この約束を確実なものにするために、簡易裁判所で、この約束を和解調書という書面にしてもらうという方法があります。これが、訴え提起前の和解です。これは、正式な裁判をする前に、つまり訴えの提訴前に、話し合いがついて和解をするので、訴えの提起前の和解と呼んでいるのです。
ここで、「えっ、話がついたら公正証書を作ればいいじゃないか。何で簡易裁判所まで行く必要があるの?」と思う方もいるかもしれません。確かに、公正証書を作るというのも一つの方法ですが、公正証書の説明のところで書いたとおり、公正証書の記載だけで強制執行ができるのは、お金の支払いなどに関する約束に限られ、建物明け渡しの約束を破っても、公正証書の記載だけでは強制執行はできないのです。ですから、借りている部屋の明渡しの約束を公正証書に記載しても、もし借主がその約束を破ったら、改めて明渡しを求める裁判を起こして、裁判所から、明渡しを命じる判決をもらわなければならないのです。
ところが、訴え提起前の和解で、借主が借りている部屋の明渡しを約束した場合には、この和解を記載した書面(和解調書といいます。)によって、直ちに明渡しの強制執行ができるのです。
どんな時に使う?
調停は,訴訟と異なり,裁判官のほかに一般市民(弁護士もいます。)から選ばれた調停委員2人以上が加わって組織した調停委員会が当事者の言い分を聴き,必要があれば事実関係も調査し,法律的な評価や社会常識に基づいて当事者に歩み寄りを促し,当事者の合意によって紛争の解決を図る制度です。
ですから、家賃の滞納などの単純な事案ではなく、借主が騒音を出して近所から苦情が出ているので騒音を出すのをやめてほしいとか契約書には明記されていないが、ペットを飼うことをやめさせたいなどの、ある程度複雑な事案や意見の対立がある事案で、話し合いの機会を作りたいという場合に適しています。
どんな時に使う?
たとえば、月額10万円の家賃を3カ月分合計30万円滞納している借主がいるとします。大家さんとしては、当然、滞納家賃を払うように請求します。この大家さんの請求に対して、借主が、すぐに滞納家賃を支払ってくれれば問題ありません。
しかし、借主が支払いをしないの場合は、次のような3つの対策をとることが考えられます。
その借主と話し合い、滞納分の家賃の支払いを約束する公正証書(執行認諾文言付きのもの)を作る。
少額訴訟の裁判を起こし、滞納分の家賃を支払うように命ずる判決をしてもらう。
支払督促手続きをして、滞納分の家賃の支払命令に仮執行宣言を付けてもらう。
このような公正証書(執行認諾文言付きのもの)、少額訴訟の判決、または仮執行宣言付き支払命令があれば、強制執行をすることができます。
借主は、家賃を払えないような経済状態ですから、不動産、車、貴金属などの高額の財産をもっているとは考えられません。預金もほとんどないでしょう。
このような場合に、借主が就職していて給料があるのならば、この給料を差押えることが考えられます。
どんな時に使う?
支払督促は、金銭などの請求について,債権者(請求する人)の申立てにより、裁判所が支払督促(「お金を払え」という裁判所からの命令書を送ること)をする手続であり,裁判所からの支払督促を受け取った債務者(支払う人)が2週間以内に異議の申立てをしなければ,裁判所は,支払督促に仮執行宣言(強制執行をしてもよいという許可のようなもの)を付さなければならず,債権者はこれに基づいて給料差押えなどの強制執行の申立てをすることができます。
たとえば、借主が月額10万円の家賃を3カ月分滞納している場合、大家さんは、30万円を請求する支払督促を申立てることができ、この申立てを受けた裁判所は、借主に30万円の支払督促の書類を送ります。
借主がこの書類を受け取ってから2週間以内に異議申立てをしないと、裁判所はこの支払督促に仮執行宣言を出します。仮執行宣言というのは、先ほど説明したとおり、請求している30万円について強制執行をしてもよいという裁判所の許可のようなものですから、仮執行宣言が出たならば、借主の給料の差押えなどの強制執行をすることができます。