どんな時に使う?
たとえば、借主が家賃を3ヶ月以上滞納しているとか騒音を出して周りから苦情が出ているなどの場合に、大家さんは、借主に対して、滞納している家賃を請求したり、騒音を出さないように警告したりします。
ところが、借主が、大家さんの請求や警告を無視し、家賃の滞納を続けている、あるいは騒音を出し続けているなどという場合は、契約を解除した上で明渡し訴訟を起こし、裁判所から明渡しを命じる判決を出してもらうしかありません。
この場合、明渡し訴訟の被告となるのは、現実に建物を使用している人間であり、通常は借主です。
しかし、もし借主が部屋からいなくなり、正体不明の人間が部屋を使用していると、その正体不明の人間を被告としなければならなくなります。ところが、正体不明ということは、名前も素性も分からないので、裁判を起こすことが困難となります(当然、こういう輩は、部屋を訪ねて名前や素性を聞いても、答えません。)。借主が悪質な人間であり、借家のトラブルについての法律的な知識があると、裁判をさせないように、こうした妨害行為をしてくるのです。
そこで、もし、借主が、上記のような行動に出そうだという場合は、裁判所に「占有移転禁止の仮処分」の申立をして、借主が、借りている部屋を他の人間に使用させることを禁止する命令を、裁判所から出してもらうことができます。
この命令が出ると、借主が、借りている部屋を他の人間に使用させることは禁止され、もし、他の人間がその部屋に入り込んで使用しても、借主を相手に明渡し訴訟をして勝訴すれば、その判決に基づく明渡し執行で、借主だけでなく、その正体不明の人間も、立ち退かせることができます。
方法、メリット、費用は?
やり方はどうするか
明け渡しを求める部屋の所在地の地方裁判所に、仮処分命令申立書という書類を出します。
この申立書類の作成や必要書類の収集は、かなり難しいので、弁護士などの専門家に依頼したほうがよいでしょう。証拠が揃っていれば、申立てから数日間で仮処分命令がでますが、この命令を出してもらう前に、「保証金」というお金を裁判所に預けなければなりません。
なぜ、このような「保証金」が必要かというと、仮処分命令というのは、原則として申立をした人(この場合は大家さん)の言い分だけを聞いて、相手方(この場合は借主)の弁明を一切聞かずに、数日間という短い期間で命令を出す制度であり、あくまで仮の裁判です。そこで、申立てた人の言い分が正しいかどうかは、きちんと本番の裁判をして、決着をつけることになります。
従って、大家さんの申立てどおり、占有移転禁止の仮処分命令を出したが、明渡し訴訟という本番の裁判で、大家さんの言い分が通らず、大家さんが負けてしまうということも有り得ます。そうすると、借主は、大家の間違った言い分により、占有移転禁止の仮処分命令を受けたことになり、これによって、何らかの損害を被ったかもしれません。
この借主の損害を賠償する資金として、裁判所が大家さんからお金を預かっておく、これが「保証金」なのです。保証金の金額は、普通の賃貸マンション・アパートで家賃が10万円程度のものであれば、10万円から20万円程度の金額です。
占有移転禁止の仮処分命令が出ると、裁判所にいる執行官という人と打ち合わせをし、執行官と一緒に、貸している部屋に行き、部屋の中に入って使用者や使用状態を調査します。さらに、占有移転禁止の仮処分命令が出ていることが記載してある書面を、部屋の中の見えやすいところに貼り付けてきます。
利点は何か
最大の利点は、この命令が出ると、この命令の後に、他の人間がその部屋に入り込んで使用しても、借主を相手に明渡し訴訟をすればよいということになります。つまり、裁判の相手が固定されるということです。
また、この命令が出ると、執行官が部屋を訪れて、使用者や使用状況を確認しますが、これによって借主がギブアップし、本番の裁判をせずに自主的な明渡しに応じるというケースがあります。借主が普通の人なら、裁判所の執行官が来て、強制的に部屋に立ち入るようなことがあれば、大家さんと裁判をしようという気力がなくなってしまうことが多いのです。
さらに、既に正体不明の人間が部屋を使用している場合でも、この仮処分命令の申立てはできます。つまり、この仮処分命令の申立は、普通の裁判とは違い、名前も素性も分からないけど、現在部屋を使用している人を相手して、申し立てることができるのです。しかも、仮処分命令が出た場合、執行官は強制的に部屋に立ち入り、調査する権限がありますので、この調査との時に、その部屋を使用している人間に対して、名前等を問いただすことができるのです。
費用はどれくらいかかるか
① 裁判所に納める郵便切手
2,000円分の切手を裁判所に納めます。
② 収入印紙
1件について2,390円分の収入印紙を裁判所に納めます。
③ 弁護士に依頼した場合の弁護士費用
事案の難易度によりますが、少なくとも157,500円くらいはかかります。