前回説明したように、高齢入居者の場合、定期借家契約形態を選択するのが適切ですが、定期借家契約を選択しても、高齢入居者の認知症の程度が重く、賃貸借契約期間の満了を待つことができないときは、契約期間中であっても契約を解除するしかありません。
また、通常の借家契約を選択した場合は、賃貸借契約期間が満了しても契約は原則として終了しませんので、高齢入居者の認知症の程度が重い場合は、直ちに契約を解除するしかありません。
この場合、まず、解除事由が問題となりますが、「身体または精神の疾病等により、貸室を適正に管理することができなくなったこと」ということになります。一般の契約書にはない解除事由ですので、特約事項として、この解除事由を明記しておくべきです。
次に、認知症の程度が重い場合は、高齢入居者に契約解除の通知を受領する能力自体がないことになりますので、解除しようとしても解除通知をすることができません。
そこで、契約時の対策として、高齢入居者の親族の中から、大家さんからの契約解除の通知その他の意思表示を、高齢入居者を代理して受領する人(意思表示の代理受領者)を決め、賃貸借契約書にこの点を明記しておくことが考えられます。これによって、認知症の程度が重い高齢入居者に対しても、契約解除の意思表示をすることが可能となります。
さらに、この意思表示の代理受領者には、賃貸借契約の連帯保証人も兼ねてもらえれば、大家さんとしてはより安心です。
賃貸借契約の連帯保証人は、賃貸借契約に基づいて高齢入居者が負う全ての債務について、高齢入居者と連帯して責任を負います。このため、連帯保証人は、高齢入居者の行為によって貸室が破損したり、他の入居者に迷惑をかけたりして、高齢入居者が大家さんに損害賠償責任を負った場合には、その責任をまともにかぶることになります。従って、連帯保証人は、解除通知によって高齢入居者の認知症の程度が重く、放置すると重大な責任を負いかねないことを知れば、高齢入居者の引き取りや他の施設への転居等の対策を、積極的に講じてくれる可能性があります。