これから6回に渡って、高齢入居者を受け入れる際の法的問題点について検討します。ここで対象とする賃貸借は、サービス付き高齢者住宅などの高齢者すまい法の適用を受ける賃貸借ではなく、通常の賃貸借契約です。
まず、入居に当たって高齢入居者と賃貸借契約を締結することになりますが、ここで最初の法的問題として、契約形態をどうするか、すなわち通常の借家契約を選択するか定期借家契約を選択するか、が出てきます。
高齢入居者の場合、賃貸借契約期間を2年としても、その2年間の間に認知症やその他の理由によって介護が必要な状態になってしまうことが考えられます。高齢入居者がこのような状態となった場合に、大家さんとしては、契約を終了して退去を求めざるを得ないことがあります。
この点、定期借家契約であれば、少なくとも契約期間が満了すれば契約は終了し更新されないので、その時点で、解約申入れや解除といった特別の手続きをとらなくても、契約終了を理由として退去を求めることができます(ただし、契約期間の途中で契約を終了して退去を求めざるを得ない場合には、契約を解除するしかありません。)。
これに対して、通常の借家契約の場合は、更新拒絶には正当事由が必要ですが、認知症や要介護となったことだけでは正当事由となりません。
また、更新拒絶ではなく契約期間中の契約解除で対応しようとしても、認知症や要介護となったことだけでは解除事由とはならず、認知症や要介護となったことによって実際に本人や周囲の人の生命や身体に危険があるとか貸室を正常に管理できないという具体的事情がなければ、契約を解除することはできません。
しかも、認知症の程度が重い場合は、契約解除の通知自体を受領する能力がないことになりますので、解除通知自体をすることができません。こうなると、本人は認知症や要介護となり明らかに一人で生活するのは危険な状態なのに、契約はいつまでも継続するということになります。
従って、高齢入居者の場合、定期借家契約形態を選択し、契約期間が満了して契約が終了した時点で、高齢入居者の健康状態により、新たに定期借家契約を締結するという方法をとることをお勧めします。