更新料の法的性質からの検討の続きです。
【賃貸借契約更新に対する異議権の放棄に対する対価】
これは、大家さんは、更新を認めることによって、契約の更新に対して異議を述べる権利を放棄しているのだから、その対価として、更新料をもらうのだという意味です。
この点について、大阪高裁は、「本件賃貸借の更新拒絶について正当事由が存在し、契約更新の異議権が発生するなどということはおよそ考えられないことで
ある。」と述べて、この説明も否定しています。
すなわち、今の借地借家法では、大家さんは、「正当事由」がないと、契約の更新に対して異議を述べることはできません。「正当事由」というのは、大家さ
んが、貸している部屋を自分で使用しなければならない差し迫った事情ですが、アパート経営をしているような大家さんには、通常はこのような事情はありませ
ん。
ということは、大家さんは、借地借家法の規定により、もともと契約の更新に対して異議を述べることができない、つまり異議権などないのだから、それを放
棄する対価という説明は成り立たないのです。
【賃借権強化の対価】
最後に、賃借権強化の対価という説明です。これは、ちょっと説明が難しいのですが、建物の賃貸借契約では、契約期間が満了したのに更新契約しないと、そ
の契約は法定更新になります。法定更新というのは、正式な更新契約はしていないが、法律の規定により契約が更新されたことにしてしまうというものです。
この法定更新の場合、民法の規定によると、契約期間を決めていない契約(つまり、期間の定めのない契約)という取扱いになりますので、大家さんは、いつ
でも解約申入れができ、大家さんから解約申入れがあると、3か月で契約が終了してしまいます。
このように、法定更新では、借家人は、いつ大家さんから解約申入れがあるか分からず、不安定な地位に立つことになります。
ところが、正式に更新契約を締結すれが、借家人は、少なくとも更新契約で定めた契約期間中は、法定更新の場合とは異なり、大家さんから解約申入れを受け
る心配はなくなりますので、借家人の賃借権は安定したもの、つまり強化されたことになります。
これを、大家さん側から見ると、法定更新なら、その後いつでも解約申入れができるのに、更新契約をすることによって、解約申入れができる有利な地位を失
うのだから、その対価として更新料をもらうのだということになります。
しかし、上記の説明には、一つ重要な誤魔化しがあります。それは、法定更新の場合には、確かに大家さんはいつでも解約申入れができますが、この解約申入
れにも、借地借家法によって、先ほど説明した「正当事由」が必要なのです。つまり、大家さんが解約申入れをしても、大家さんに「正当事由」=自分で使用し
なければならない差し迫った事情がないと、結局、解約申入れは認められず、契約は終了しないのです。
そうだとすると、そもそも、法定更新の場合でも借家人の地位は不安定ではないのであり、大家さんから見ると、解約申入れができる有利な地位など、本当は
ないのだから、その有利な地位を失う対価という説明も成り立たないのです。
大阪高裁も、この点を指摘して、更新料が賃借権強化の対価であるという説明を否定しています。
このように、今回の大阪高裁の判決では、更新料の法的性質として、従来主張されていた3つの説をすべて否定し、「本件更新料条項は全く合理性がないものである。」としています。
次回は、「更新料の社会的承認からの検討」について、大阪高裁の考えを説明します。