今回は、占有移転禁止の仮処分命令の執行です。
裁判所から占有移転禁止の仮処分命令を出た場合は、裁判所にいる執行官という人にお願いして、仮処分命令の対象となった部屋に行ってもらい、仮処分命令の執行をしてもらいます。
執行官というのは、裁判所の職員ですが、裁判所の裁判官や書記官とは異なり、裁判所で事件の審理をするのではなく、判決や命令を実現する作業(これを執行といいます。)を行なう人です。イメージとしては、裁判所の中の独立実行部隊という感じです。
また、仮処分命令の執行とは、執行官が、仮処分命令の対象となった部屋に行き、部屋に借主が居ても居なくても強制的に部屋に入り、部屋の中を確認します。その上で、借主が部屋にいれば、借主に仮処分命令が出たことを伝え、その部屋を他の人に使わせてはならないと書いた「公示書」を、部屋の中の見えやすい所に貼ります。
これによって、借主は勿論、この部屋を訪れた人は、「公示書」を見て、占有移転禁止の仮処分が出ていることを知ることができます。
今回の事件でも、仮処分命令が出た後、直ちに仮処分執行の申立てをして、仮処分執行をしてもらいました。
執行当日は、この部屋のあるアパートの前で、執行官、立会人、鍵屋さんと落ち合い、執行を行ないました。まず、執行官が対象となる部屋の前に立ち、ドアをノックして借主の名前を2~3回呼びました。返事がないので、大家さんの持っている合い鍵でドアを開けようとしましたが、いつの間にか鍵が変えられていて開きません。そこで、予め呼んでおいた鍵屋さんにドアの鍵を開けてもらいました。ごく普通のアパートの鍵ですので、プロの鍵屋さんは、あっと言う間に開けてしまいました。
鍵が開いたので、ドアを開けて中に入ろうとしたとき、何と、目の前に借主が居て、「勝手に人の家のドアを開けるなよ。」と立ちはだかりました。居留守を使っていたのです。これに対して、執行官は怯むことなく、「裁判所の命令できました。中に入る権限があります。」と身分証明書を見せながら力強く言い切りました。借主は、執行官の迫力に押され、黙り込んでしまいました。
執行官は、部屋の中に入ろうとしましたが、借主は、「できれば、外で話しませんか。」と今度は丁寧に言いました。しかし、執行官は、「いや、中を見せてもらいます。」と言って、部屋の中に入っていき、部屋の中の様子を確認しました。執行官は、その職務として、執行申立書添付の図面と実際の部屋の間取りなどを対照して、執行した部屋が間違っていないか、部屋の中に別の者がいないかなどを確認し、その上で、その部屋を他の人に使わせてはならないと書いた「公示書」を見やすい位置に貼りました。これで、執行は終わりです。
その場で、私は、借主に対して、「何とか裁判までしないで、出て行ってもらえませんか。」と話し合いを持ちかけました。借主は、簡単に追い出されることはないと高をくくっていたようですが、執行という裁判所の力を目の当たりにしたので、かなり弱気になったようです。借主は、「仕事がない」とか「行くところがない」というような自分の置かれている状況を説明したした上で、「よく考えて後で連絡する。」と言ってくれました。
これが、仮処分命令執行です。もちろん、もっと激しく抵抗する借主もいます。
この仮処分執行にかかった費用は、執行官に納める執行費用の予納金30,000円と鍵屋さんの費用25,000円の合計55,000円でした。もっとも、執行費用の予納金30,000円のうち約14,000円は、後で戻ってきましたので、実際には、31,000円の実費がかかったことになります。